『インサイドセールス』という職種の終焉と『SDR』の台頭
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トミオだ。年末年始っていいもんだな。じっくりと腰を据えて、ずっと取り組みたかったテーマに向き合うことができた。
そんなわけで、今日のは渾身のエントリーだ。僕がここ最近ずっと考えてきた話をする。気合いが入りすぎて、うっかり7,000字の長編エントリーになってしまった。正直、まあまあ読むの大変だと思う。すまない。
この話をしようと思った理由のひとつに、僕自身がインサイドセールスとして外資ITセールスとしてのキャリアをスタートしたからというのがある。2011年、Autodeskという会社のシンガポールオフィスで日本マーケット担当の『Inside Sales Rep』として採用されたことが僕のキャリアを大きく変えた。
僕は偶然トレンドの転換点にいたことで、恵まれた外資ITキャリアを歩むことができた。そして、その新しいトレンドは今も加速を続けている。このエントリーでは過去から現在に至る業界の流れを追いながら、今まさに起こっている変化について考察する。これから外資IT業界に挑む人たちに向けたトミオのメッセージも伝えられたらと思う。
『インサイドセールス』の誕生と成長
法人向けのソフトウェアは従来、途轍もなく高額であった
さあ、長いエントリーにありがちな「昔語り」からスタートだ。
ほんの10年ほど前まで、法人向けソフトウェア、いわゆるエンタープライズソフトウェアは基本「パーマネントライセンス=永久ライセンスの買い切り」方式で販売されていた。この方式では一度買ったライセンスを永久に使用することができるが、その分初回契約時のコストが高い。また契約は将来のバージョンアップを含まないので、最新バージョンを使いたいと思ったら別途保守契約を締結するか、数年後に再度新しいバージョンを購入しなくてはならない。
なにせ高額だし、一度使い始めてしまったらそう簡単にやめられない。だから、企業は導入を決めるまでに年単位の時間をかけて検討するのが普通だったし、導入時の初期コストが数千万円から数億円ということが珍しくなかった。導入が決まると、そこから数ヶ月に渡る要件定義が始まり、その後プロフェッショナルサービスチームによる長期間に渡るインプリ(実装)作業が続く…これが、「普通の姿」だったのだ。
高額なソリューションを「アメリカ」という広大な国で売るための分業体制
エンタープライズソフトウェアの本場アメリカは広い。面積が日本の36倍だ。…と言ってもなかなかイメージが湧かないかもしれないけど、一つの国の中にタイムゾーンが3つあるという事実だけ見てもヤバい。日本とインドの時差が3.5時間だから、それに匹敵する差が東海岸と西海岸の間に存在するわけだ。
そんな広いアメリカで顧客を訪問しようとすると、移動だけで丸一日潰れたりする。企業としては給料の高いエンタープライズ営業に無駄な訪問はさせたくないし、だからと言って高給な人材に「精度の高いアポ取り」に心血を注がせるのももったいない。そこで、内勤で移動時間を必要とせず、毎日大量の電話やメールを発信しアポ取りや案件発掘を行う『インサイドセールス』という専門職が生み出された。『フィールドセールス』に案件供給をすることがインサイドセールスの誕生理由だったのだ。
この分業の仕組みはエンタープライズソフトウェアの世界で広く受け入れられ、それが2010年代の「インサイドセールスブーム」に繋がっていく。
『インサイドセールス』と『フィールドセールス』の間のキャリアの高い壁
この誕生経緯を見てもわかる通り、役割分担としてはあくまでフィールドセールスが「主」、インサイドセールスは「従」であった。
インサイドセールスは案件発掘のスペシャリストであり、案件を前に進めたりクロージングしたりといった部分はフィールドセールスが行う。そしてフィールドセールスが取り扱う案件の規模は数千万円以上と高額だ。こうなると、インサイドセールスとして入社した人間がフィールドセールスに異動したいと考えたときにスキル・経験の大きな壁にぶち当たることになる。インサイドセールスとして相応の成果を出した上で「フィールドセールスに昇格させてくれ」と社内アピールしたとしても、そもそも会社の仕組み的に昇進が想定されていない場合も存在した。
実際、外資IT YouTuberとして有名なUtsuさんという方もインサイドセールスからフィールドセールスに移るのは難しいという見解をお話しされている。
インサイドセールスに訪れた3つの「終焉の予兆」
そんな感じで2010年台に大きなブームを起こしたインサイドセールスだが、業界に訪れた新たなトレンドによりその立ち位置を変化させていく。
予兆1:インターネットのブロードバンド化とソフトウェアビジネスのSaaS化
最初の予兆は、テクノロジーの進化とSaaS=Software as a Serviceという新たなビジネスモデルの浸透だ。(SaaSとは何か、といったあたりの説明はこのエントリーでは行わないが、ちょっと検索すると大量に情報が出てくるので必要であれば各自調べてほしい。)
具体的には、以下のような変化が起こった。
- インターネットがブロードバンド化したことによりソフトウェアはブラウザ上で使えるようになり、またオンライン会議システムを使った商談が当たり前になった。
- Salesforceに代表されるSaaS企業は月額ないし年額のサブスクリプションでソフトウェアを販売するようになり、導入時に必要な初期投資が劇的に軽くなった。
- SaaS企業がインフラのセットアップや維持にかかる負担を担うようになったことで、人やハードウェアに投資できない小規模の法人でも本格的なソフトウェアを導入できるようになった。
これらの変化を背景に、セールスの働き方にも変化が起こり始める。
予兆2:インサイドセールスのフィールドセールス化
僕が2013年にTableau Softwareの日本法人に国内第一号の営業として入社したとき、会社は『Sales Area Manager』というロールを用意してくれた。(社内では略してSAM=サムと呼ばれていた)
このSAMは内勤のロールだったが、従来の『インサイドセールス』とは明確に異なっていた。クロージングを含むセールスサイクルのすべてを自ら担当し、売上のQuota=ノルマを負うのだ。ビデオ会議で商談を行い製品デモもWebExというオンライン会議システムで画面共有しながら行うので、フィールドセールスとやっていることに大きな違いはない。違うのは、いわゆる大企業ではなく中小企業〜年商数百億円くらいまでの中堅企業を担当することと、顧客と直接会わないので名刺交換をしないことくらいだ。
SAMは外出しない。そして、担当するのは比較的小規模の法人だ。だから、毎日大量の電話やメールを捌きながら、1時間に1本のペースでオンラインミーティングをセットし、細かい案件をマシンガンのようにクローズしていく。TableauではSAM1人あたり、四半期に50〜80案件くらい受注するのが普通だった。この内勤のガチ営業の仕組みは大当たりし、Tableauは時代の寵児になった。(製品がバカ売れしたおかげで、僕は5年弱の在籍期間中、年間ノルマを一度も落とさなかった。)
このシステムにはもう一つ、面白い副産物があった。売上の責任を負うようになると同時に、担当者に与えられる裁量が大きくなったことだ。要は結果を出せばいいので、細かなアクションレベルで上長に相談する必要がなくなるのだ。SAMは次第に、案件サイズが大きいときや大きな案件を仕込みたい顧客に対しては直接の訪問を行うようになっていった。(これには企業の本社機能が狭い範囲に集中している東京という都市の特殊性も関係しているが、それはまた別の機会で…)
予兆3:フィールドセールスのインサイドセールス化
インサイドセールスがフィールドセールスに近い役割を担うようになっていった一方、フィールドセールス側にも変化があった。
WebExやZoomといったオンライン会議の仕組みが商談を変え、その変化をコロナ禍が後押しし決定的なものにした。プレゼンテーションや製品デモで画面を共有する必要がある場合、下手に訪問して古臭いプロジェクターを使わされるよりZoomの画面共有のほうがよほどいいことに、セールス側も顧客側も気付き始めたのだ。お互いに移動時間や会議室予約の手間が大幅に節約できるし、さらに素晴らしいことに感染症の心配もゼロだ。
新型コロナウイルスのパンデミック前は、なんだかんだ言っても「やはり大きな商談は顔を合わせて行わないと」という見方が大勢であった。商談規模が大きくなると登場する人間の数も増えるしその人々の関係性も複雑なので、オンラインだけで完結させるなんてさすがに無理がある…そう、皆が考えていた。しかし、コロナ禍が変えてしまった。だって会いたくても直接会うことが禁止されてるんだから、商談も取引もオンラインで行うしかない。
僕が今Medalliaという会社で担当しているロールは従来の分類で言えば『フィールドセールス』だが、2020年3月に入社してから現在までに行った数百回のミーティングのうち、実際に顧客を訪問したのはほんの数回だ。にもかかわらず、一度も訪問したことのないお客さんから数千万円の発注を頂いたりしてきている。コロナがすべてを変えたのだ。
インサイドセールスの終焉とSDRの台頭
『インサイドセールス』と『フィールドセールス』は融合して一つになった
テクノロジーとビジネスモデルの進化、それから世界レベルの感染症の流行により『インサイドセールス』は従来の業務の範疇を超えた仕事をするようになり、『フィールドセールス』はフィールドに出ず自宅の個室から顧客とやりとりするようになった…つまるところ、二つのロールは互いに交差し、融け合ってしまったのだ。
実際、この変化を反映して、現在では多くの企業が『インサイドセールス』というロール名での募集をしなくなってきている。いまだにインサイドセールスを募集している会社もあるけど、正直な話、古さを感じてしまうよね。
新たに誕生した、『SDR』と『AE』の協業体制
『インサイドセールス』『フィールドセールス』という呼び方をしなくなった代わりに使われることが多くなっているのが『AE=Account Executive』『SDR=Sales Development Representative』という区分だ。
AEは、いわゆる、個人として売上のノルマを背負ったセールスだ。担当する企業のサイズによって『SMB=Small-Medium-Business AE』『Mid-Market AE』『Enterprise AE』などと細分化されていくことが多いが、違うのは担当する企業の規模だけだ。
内勤ベースか外勤ベースかは特に考慮されない。というよりも現在は過渡期なので、結果を出すためには内勤と外勤をどういった配分で行うといいのかのベストプラクティスが確立されておらず、皆が試行錯誤している最中と言った方が正しいかもしれない。
SDRは、AEに引き渡すための案件の発掘を担当する職種だ。見込み客からの問い合わせにも対応するが、それよりも電話、Eメール、物理的なお手紙、あの手この手を駆使して狙った企業のキーマンへの突破口を開く『アウトバウンド』の案件ソーシングがメインのミッションになることが多い。(ちなみにほぼ同じ役割をBDR=Business Development Rep、もしくはMDR=Market Development Repと呼んでいる企業もある)
SDRはただのインサイドセールスではない、外資ITセールスキャリアの『一段目』だ
ここまで読んで「インサイドとかフィールドとか言わなくなっただけで、やってることは結局同じなのでは?」と思わなかっただろうか?いい視点だ。しかし、違うのだ。
現代の多くのSaaS企業は、SDRをかつてのインサイドセールスのような「アポ取りの専門職」だとは考えていない。AE、もしくはCSM(カスタマーサクセスマネジャー)としてキャリアを前に進めてもらうための第一歩だと考えているのだ。
背景として大きいのは、やはり『ソフトウェア販売のSaaS化』だろう。サブスクリプション契約になったことで導入時のコストが抑えられ、さらにインフラのメンテナンスや製品のバージョン管理をSaaS企業が引き受けることで中小〜中堅規模の会社でもエンタープライズソフトウェアを気軽に導入できるようになったのは上述の通りだが、この変化のおかげでより小規模の法人を担当するAEロールが誕生し、『キャリアの壁』が『キャリアの階段』くらいまでなだらかになったのだ。
さらに言うなら、AEに求められるスキルは「ハイタッチ」と呼ばれ、企業の決済者レベルに対して直接アプローチして関係を構築しバリューを訴求することなのだが、役員レベルを狙い撃ちしてアポを取り付けるSDRはこの「ハイタッチ」の訓練をするのにもうってつけだ。
まとめ、そしてトミオからのメッセージ
以上が、かつて存在した『インサイドセールス』という職種が消滅した経緯と、現代の外資IT登竜門の入り口として登場した『SDR』という職種に関するトミオの見解だ。
この変化は、今から業界に入る人間にとっては、キャリアパスが見えやすくなって安心して業界入りできるようになったのだから歓迎すべきものと考えていいと思う。同時に採用する側の企業としても、癖が強く給料ばかり高い完成品のAEを採用する代わりに、優秀な若手をSDRとして採用しAEに育成できるようになったわけだ。好ましい変化と言えるだろう。(まあ、増え続ける人材需要に供給が追いついてなくて素人を育て上げないと足りなくなっただけとも言えるけど…)
正直僕自身も、去年5月に外資IT転職相談を始めた時点ではこの構造に気づいていなかった。何人ものチャレンジャーが体を張り、傷つきながらも果敢に挑戦して道を切り拓いてくれたおかげで、僕は今この話を次世代のチャレンジャーに向けて発信できている。
外資ITセールスとして生きることは決して楽な道ではない。「結果を出す」、その一点をコミットすることで生存を許される傭兵の世界だ。だが、成果に対しては相応以上の見返りを用意してくれる世界でもある。今はSDRという「即死しにくい入り口」も用意されている。
やるかやらないかは君次第だ。2022年、ぶっ飛ぶ年にしようぜ。
外資IT転職相談 on Zoom/Google Meet、引き続き受け付けてます。
ついに通常枠で用意できる最短の日程が2月頭になってしまったが、挑戦者からの相談を常に受け付けている。
我こそはと思うチャレンジャーは以下のプロセスでトミオに連絡してほしい。
0. 応募条件
上でも述べたようにトミオのスケジュールがオーバーヒート気味のため、ハードルとしては低めだとは思っているが以下2点を応募の際の条件として設けさせてもらっている。
- 外資IT業界への転職を検討していること(転職時期は問わないので、予定が2年後3年後でも問題なし)
- TOEIC600点以上を保有、ないしはそれ相当の英語力があること(最初から喋れなくてもいいけど、さすがに英語がゼロだとサバイブできないので)
1. トミオにコンタクトする
以下のどれか、都合の良い方法でコンタクトしてくれ。
- LinkedIn DM
- Twitter DM
- Eメール(keidgi@gmail.com)
トミオへの連絡時に知らせてもらいたいことは以下3点だ。
- 本名フルネーム
- 現在している仕事(簡単で構わない)
- 新しい会社で働き始めたい時期(緊急の場合は特別対応を検討する)
2. トミオからの返信を待って日程調整する
トミオは、連絡をもらって24時間以内に空きスケジュールの情報とともに返信する。都合のつくところを選んでもらえたらと思う。24時間経っても返信がない場合、単に見落としている可能性が高いので「返事がねえぞコノヤロウ」とリマインドしてもらえるとありがたい。
3. 事前ヒアリングシートに回答し当日を待つ
日程が決まったら、トミオから事前ヒアリングシートのURLが共有されるのでなるべくすぐに記入をお願いしたい。このシートに書いてもらったことをベースに当日の流れを決めるので、全員に記入をお願いしている。
それでは、2022年も多くのチャレンジャーと出会えることを楽しみにしている。みんなおいでよ外資IT!
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