Zoom ── 「ビデオ会議だけの会社」じゃなくなった
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学長トミオ
今日の主役はZoomや。みんなコロナ禍で一回はお世話になったやろ、「ビデオ会議のアレやろ?」って。……ところがな、そのZoom、2024年の暮れに会社名から「Video(ビデオ)」の一語を外したんや。Zoom Video Communications あらため、Zoom Communications。ビデオ会議だけの会社でおるのを、やめにきた ── そういう意思表示やねん。で、ワイはよう相談されるんよ、「外資ITの一社目、どこがええ?」って。今日はこのZoomを題材に、その問いを一緒に考えてみよか。
とはいえ外資は甘ない。「製品が有名やから早う立ち上がれる」だけで選んだら痛い目見ることもある。せやから今日もワイの見立てを、業界の大先輩でもある黒田さんに、事実で検証してもろたで。先に正直に言うとくと ── Zoomはそもそも転職エージェントを使わへん、採用は全部ダイレクトの会社や。そやからフィーがどうこういう関係やない。ただ、ウチで一緒に準備してきたチャレンジャーが、自分の力でZoomに入って活躍しとる。そういう子らを通じて現場の話もちょこちょこ聞こえてくるし、中の人とも縁はあるんや。全然知らん会社を外から眺めて書いてるわけやない、くらいの距離感やと思てくれたらええ。そのうえで、ヨイショもアラ探しもなし、フラットにいくで。ほな黒田さん、お願いします。
\ この記事の検証担当 /
黒田 Challengers Academy 企業研究担当
外資ITの現場から経営の近くまでをひと通り経験し、いまは一歩引いて業界全体を見ています。会社を宣伝文句ではなく、構造で読み解くのが役回りです。本シリーズでは、学長トミオの見立てを、事実に照らして確かめていきます。
学長トミオは「Zoomは外資ITの一社目に勧めやすい」と話していました。その見立てを、事実に照らして確かめていきます。結論から申し上げると、妥当な点は複数あります。ただし先に、この記事で一番伝えたいことを言っておきます。誰もが知っている分かりやすい製品の出身者を、市場はまず「説明の要らない、安いものを売ってきた人」と値付けします。これはZoomに限らず、そう見られる。問題は、その見方に「いや、自分は違う」と事実で返せるだけの経験を、在職中に積めるかどうかです。 見られ方そのものは、こちらで動かせません。動かせるのは、それに抗える実績を持てるかどうかだけ。同じ会社で同じ年数を過ごしても、そこは違ってくる。なぜそう言えるのかを、構造から順に解いていきます。
Zoomとは ── まず「ビデオ会議だけの会社」という認識をアップデートする
Zoom(Zoom Communications, Inc.)は、2011年に Eric Yuan(エリック・ヤン)氏が創業した、米国カリフォルニア州サンノゼに本社を置くソフトウェア企業です。NASDAQに上場しており(ティッカー:ZM)、日本法人は ZVC JAPAN 株式会社として2018年に設立されています。
多くの方にとって、Zoomは「コロナ禍でお世話になったビデオ会議ツール」という認識でしょう。実際、同社が一気に知られたのは2020年前後のリモートワーク需要によるものです。ここで筆者がまず申し上げたいのは、企業研究の入口として、この「広く知られている」という事実そのものが、構造的に大きな意味を持つということです。
転職先を検討する読者にとって、製品が広く知られているかどうかは、単なる知名度の問題ではありません。営業として入社したとき、自分が売る製品を、自分自身が把握しやすいということです。多くの外資ソフトウェア企業では、入社後の最初の壁が「自社製品が何を解決するのかを、まず自分が腹落ちして、自分の言葉で語れるようになること」にあります。聞いたこともないジャンルの製品だと、ここに何ヶ月もかかる。Zoomの場合、入る本人がすでに製品を使ったことがあり、何をするものかを体感で分かっている。一社目は、外資ITの営業のやり方そのものを覚えるだけで手一杯です。そこに「製品理解」という重い課題が乗ってこない出発点の違いは、負荷として無視できません。
その上で、副次的にもう一つあります。製品カテゴリ自体が世の中に浸透しているので、「そもそもこれは何のためのものか」というコンセプトの啓蒙から商談を始めなくていいことが多い。新しいカテゴリの製品だと、目の前の自社製品を売る前に「この種のツールがなぜ必要か」を相手に納得させる一段が要りますが、Zoomはその一段を省ける場面が多いということです。学長トミオの「一社目に勧めやすい」という見立ての、最初の根拠がここにあります。
社名から「Video」が消えた意味
さて、本題です。2024年11月、同社は正式名称を Zoom Video Communications から Zoom Communications へ変更しました。社名から「Video」の二文字を外したことになります。同社自身はこの変更について、AIを中心とした業務プラットフォームへ移行していく中で、新しい社名のほうが長期的な事業の範囲を正確に表している、という趣旨の説明をしています。
これは単なるブランドの言い換えではありません。同社が「自分は何の会社か」という自己定義そのものを塗り替えにきた、と読むのが筆者の見立てです。事実、現在のZoomの製品構成を整理すると、すでに「会議」は数ある機能のひとつに過ぎなくなっています。

現在の中心にあるのは Zoom Workplace という考え方です。これは、おなじみの Zoom Meetings(会議)に加えて、チャット、クラウド電話の Zoom Phone、会議室向けの Zoom Rooms などを束ねた、コラボレーション基盤として打ち出されています。さらにその外側に、Zoom Phone(クラウド型のビジネス電話=従来の電話交換機をクラウドに置き換えるもの)、Zoom Contact Center(クラウド型のコンタクトセンター。問い合わせ対応の窓口をまるごとクラウドで提供する)といった、会議とは別系統のプロダクトが並びます。
そして、これらすべてを横断して埋め込まれているのが、生成AIアシスタントの AI Companion です。会議の文字起こしや要約、通話後のアクション整理といった機能を、各製品に共通の体験として乗せています。同社が「AIファーストのワークプラットフォーム」という言い方を繰り返すのは、この横串のAIを事業の軸に据えているからです。
この記事の読者の多くはセールス職でしょうから、一つ名前を挙げておきます。Zoom Revenue Accelerator(旧 Zoom IQ for Sales)です。これは、Zoom上で行われた商談やZoom Phoneでの通話をAIが解析し、トークと傾聴の比率、一方的に話しすぎていないか、案件ごとに何回会話を重ねたかといった指標を可視化して、営業の改善につなげる会話インテリジェンス(営業支援)ツールです。実は弊社でも、営業のワークフローに組み込んで日常的に使っています。商談を後から振り返ったり、うまくいった商談をメンバー間で共有して学び合ったりと、使い道は地味ですが効きます。注目してほしいのは製品の中身そのものより、その立ち位置です。かつて「会議をする道具」だったZoomが、いまや「営業の成果を上げる道具」を売る側に回っている ── これが、プラットフォーム化という言葉の実体です。会議の録画データという足元の資産を、営業の生産性という、より値段のつく価値に変換しにきているわけです。
なぜ、わざわざ社名から「Video」を外してまで、面に広げる必要があったのか。背景には、会議という領域の競争構造があります。いまビデオ会議の市場でZoomが向き合っている相手は、Microsoft(Teams)とGoogle(Meet)という二大勢です。重要なのは、この両社が会議を「単体の製品」としてではなく、自社の業務スイートの中の一機能として提供している点です。TeamsはMicrosoft 365に、MeetはGoogle Workspaceに、それぞれ標準で含まれます。すでにOfficeやGoogleの環境を使っている企業からすれば、会議機能は「追加コストなしで付いてくるもの」になりやすい。
これに対してZoomは、もともと会議という一機能から出発した独立系のプレイヤーです。スイートに同梱して配れる二社と、会議単体で価値を示してきた一社とでは、「会議だけ」で戦えば構造的に価格勝負へ引き込まれやすい。だからZoomは、会議の一点で消耗戦をするのではなく、電話・コンタクトセンター・AIという面へ広げ、「会議の一機能」ではなく「働く現場のコミュニケーション基盤そのもの」として独自の土俵を作りにきた。社名から「Video」を外したのは、この戦い方の転換を最も分かりやすく示す一手だった、と読むのが筆者の見立てです。
整理すると、Zoomは「ビデオ会議という一点」から、「働く現場のコミュニケーションを丸ごと預かる業務プラットフォームという面」へ、自らの定義を広げにきた。社名変更は、その意思表示として読むのが妥当でしょう。
そして、これは旗印だけの話ではありません。実際に数字が動いています。全社の売上成長率自体は年3%前後と、会議本体の市場が成熟しきっていることを物語っています。伸びを牽引しているのは、むしろ会議の外側です。直近の開示では、コンタクトセンターの顧客数は前年比で6割を超える伸びを見せ、年間契約額(ARR)ベースで数億ドル規模の事業に育ちました。営業の会話を解析して商談を支援する Zoom Revenue Accelerator(前述)のライセンスも、7割を超える勢いで伸びています。さらに象徴的なのは、ある四半期で同社が獲得した大型案件の上位10件すべてに有料のAIが含まれ、その7件が競合(既存のコンタクトセンター事業者)からの置き換えだったという事実です。「会議の会社」というイメージの裏で、収益の伸びしろはすでに電話・コンタクトセンター・AIへ移っている ── これが、社名から「Video」を外した動きの中身です。
この転換は、営業の現場では「売る対象が広がった」ことを意味します。かつての主力が「会議ライセンス」だったとすれば、いまは同じ顧客に電話を、その先にコンタクトセンターを、さらにAIを重ねて提案できる。営業用語でいうクロスセル(別製品を併せて売る)とアップセル(上位構成へ引き上げる)の土俵ができ、扱う金額も、巻き込む決裁者の層も変わっていきます。会議だけなら情報システム部門で完結していた話が、より上位の意思決定者を相手にする提案へと育つ ── ここは後段の検証で効いてくるので、頭の隅に置いておいてください。
トミオの見立てを、ふたつ検証する
ここで、学長トミオの見立てに戻ります。トミオは大きくふたつのことを言っていました。「製品が知られているから一社目に立ち上がりやすい」「SMB部門があって、SDRから進む先がある」。順に確かめます。
ひとつめ ── 立ち上がりの速さは、妥当です。 理由はすでに前段で述べた通りで、入る本人が製品を体感で分かっているため、製品理解にリソースを取られにくく、コンセプトの啓蒙から商談を始める必要も薄い。外資ITの営業として最初に鍛えるべきは製品知識の暗記ではなく価値の伝え方ですから、そこに早く集中できる環境は、一社目として地味ですが確かな利点です。
ふたつめ ── SDRから「進む先がある」も妥当です。ただし言葉は厳密にします。 論じるのは「上がりやすいか(昇格が容易か)」ではありません。それは社内の実態次第で、本稿で断定できることではない。確かめるのは、SDRの上に進む先が、組織構造として用意されているかという、もっと手前の話です。
Zoomの製品は、小規模チームから大企業まで幅広い規模に売れる構成です。クラウド電話もコンタクトセンターも、小さく始めて大きく育てられる。顧客層が広いということは、営業組織の側にも、中小企業(SMB)向けから大企業(エンタープライズ)向けまで段階的なチームが置かれやすい、ということです。実際、後発のZoom Contact Centerが2022年の提供開始から短期間でガートナーのMagic Quadrant(CCaaS=クラウド型コンタクトセンター部門)に選ばれるなど、エンタープライズ側の事業にも厚みが出てきています。一般に外資ITの営業キャリアはSDR(見込み顧客の発掘役)からAE(商談をクロージングする営業)へ進むのが王道ですが、Zoomは、SDRの上にSMB担当のAE、さらに上位セグメントのAEと、進む先のロールが段階として組織に存在している会社だと見られます。
ただし、はっきり区別しておきます。「進む先がある」ことと、「実際に上がりやすい」ことは別の話です。ロールが構造として存在していても、そこへ実際に進めるか ── 採用枠、昇格のスピード、その時々の事業計画 ── は社内の実態次第で変動し、本稿で断定できることではありません。道があることは構造から読めますが、その道を何年で通れるかは、また別の問いです。検討する段階で、最新の組織状況を個別に確認してください。
なお、外資SaaS各社の営業構造を「ターゲット市場の広さ/営業レイヤーの段階性/SDRの位置づけ」という三つの軸で比較した記事を、学長トミオが別に書いています(SDRからAEへ —— 主要外資SaaS企業の営業構造比較)。そこで言う「段階的育成型」── 幅広い市場を持ち、営業レイヤーが分かれ、SDRが組織の入口になっている設計 ── に、ここまで見てきたZoomの構造はよく当てはまります。Zoomという一社を、業界全体の見取り図のどこに置けばいいかは、この記事と併せて読むと立体的に掴めるはずです。
一社目に選ぶなら ── 「Zoomで何を売ったか」が、次のキャリアの値札になる
ここまで妥当な点を中心に述べてきました。最後に、企業研究として最も大事なことを正直に書きます。学長トミオが冒頭で「忖度なし」と言った通り、フラットにいきます。これはZoomという会社の優劣の話ではありません。読者がZoomを一社目に選ぶ場合、その後のキャリアの市場価値をどう設計するかという、読者自身の打ち手の話です。
論点はひとつ、「何を売ってきた営業か」が、後のキャリアでの市場価値を左右するということです。
ソフトウェア営業の世界では、その人の市場価値は、扱ってきた商材の「難しさ」と密接に結びついています。誰もが知っていて、説明がほとんど要らず、単価も比較的手頃な製品の出身者を、市場はまず「説明の要らない、分かりやすいものを売ってきた営業」と見ます。これはフェアかどうかの問題ではなく、そういうものだと割り切ったほうがいい。Zoomという広く知られた製品を入口に選ぶ以上、このデフォルトの見方は付いてきます。
では、その見方をどう覆すか。ソフトウェア営業として最も高く価値がつくのは、その逆 ── 複雑で、高額で、相手がその価値を一見しただけでは理解できないものを、課題を解きほぐして「これはあなたにとってこういう価値がある」と翻訳し、売り切ってきた経験です。いわゆるバリューセリング(価値訴求型の営業)の実績。これを在職中に積めれば、「安いものを売ってきた人」という市場のデフォルトに対して、「いや、自分は会議ライセンスではなく、電話やコンタクトセンターやAIという複雑なものを、経営層に翻訳して売り切ってきた」と、事実で返せます。逆に積めなければ、その見方を引き受けたまま次へ進むことになる。会議ライセンスを数多くさばいてきた経験と、複雑な業務プラットフォームを経営層に提案して導入させてきた経験とでは、市場での重みが違うのです。
ここまでの検証と、この論点を重ねると、Zoomを一社目に選ぶ意味が見えてきます。入口としての優しさ(自分が製品を把握しやすい、立ち上がりやすい)を享受しつつ、そこに留まらず、Phone・Contact Center・AIといった、より複雑で単価の高いプラットフォーム領域にどれだけ食い込めるか。 それが、Zoomで過ごした時間を「市場のデフォルトの見方をそのまま引き受けて終わる期間」にするか、「その見方に事実で抗える武器を仕込む期間」に変えられるかの分かれ目になります。
つまり、Zoomは一社目として優れた入口になり得ます。ただし、その入口の優しさに安住せず、社名から「Video」が消えたのと同じ方向 ── プラットフォーム側 ── へ、自分の営業経験を寄せていけるか。そこを意識できる人にとって、Zoomは「最初の立ち上がりが速く、かつ、その後の市場価値も作れる」一社目になるでしょう。これが、学長トミオの見立てに対する筆者の検証結果です。
学長トミオ
黒田さん、ありがとうございました。さすがやな、ワイが一番伝えたかったとこを、きっちり事実で裏づけてくれたわ。
そうなんや。「製品が有名で、早う戦力になりやすい」っちゅうのは、入口としては最高の武器や。けど、それで満足してたらあかん。世間はな、有名で分かりやすいモン売ってた営業を、最初は「まあ、簡単なモン売ってたんやろ」て見てくるもんや。それは変えられへん。変えられるんは、「いや、ワイはそうやない」て言い返せるだけのモンを、おる間に積めるかどうかや。会議のライセンスをポンポン売ってましたで終わるか、電話やコンタクトセンター、AIみたいなややこしい高いもんを、お客さんの課題に翻訳して売り切ってきましたって胸張れるか。これがキミの次のキャリアの値札を決める。会社が「ビデオ」を捨ててプラットフォームに張ったんやから、キミも同じ方向に自分のキャリアを張ったらええ。会社の進化に、自分の市場価値を乗せるんや。
「Zoomってどうなん? 自分に合うかな?」とか、「外資ITの一社目、どこから狙ったらええか一緒に考えてほしい」っちゅう人がおったら、気軽に相談してきてや。一社目の選び方は、その後10年効いてくる大事なとこや。一緒に考えよ。
ほな、今日はこの辺で。みんな、Happy Selling!

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