SDRからAEへ —— 主要外資SaaS企業の営業構造比較
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ワイは毎日、最低5人のチャレンジャーと面談をしている。日系企業から外資に挑戦したい20代、すでに外資にいるが次の一手を探している人、そして各社のハイアリングマネージャーとも日々やり取りをしている。候補者と企業の双方を同時に見続けている立場にいると、ある共通した問いに何度も向き合うことになる。
「SDRになりたいのですが、どの会社が良いでしょうか。」
この問い自体は間違っていない。しかし、そこには前提のズレがある。
SDRという肩書きは同じでも、その意味は会社ごとにまったく違う。将来のAE候補として設計されている場合もあれば、専門職として深化する前提で置かれている場合もある。エンタープライズ色が強く、最初から高難度の案件に関与する構造もある。
企業名やブランド、年収レンジだけで判断すると、この違いは見えない。だが実際には、この営業構造の差が3年後、5年後のキャリアの選択肢を決定づける。
本稿では、主要外資SaaS企業の営業構造を三つの軸で整理し、「SDRからAEへ」というテーマを構造の観点から比較する。企業の良し悪しを論じるものではない。設計思想を理解し、自分がどの曲線の上に立とうとしているのかを明確にするための整理である。
第2章|営業構造を分ける3つの軸
外資SaaS企業の営業構造を理解するために、本稿では三つの軸を用いる。

第一の軸:ターゲット市場の広さ
企業がどの市場を主要ターゲットとしているかという観点である。SMB(中小企業)からエンタープライズ(大企業)まで幅広く展開する企業もあれば、初期からエンタープライズ中心で設計されている企業もある。
例えば、少人数から導入可能なプロダクトは案件単位のACV(年間契約額)を比較的柔軟に設計できる。その結果、SMBからミッドマーケット、そしてエンタープライズへと段階的に市場を拡張する営業モデルが成立する。
一方で、導入段階から大規模設計や統合を前提とするプロダクトは、自然と中堅以上やエンタープライズが主戦場になる。ターゲット市場の構造は、営業組織の設計思想に直接影響を与える。
第二の軸:営業レイヤーの段階性
営業組織にSMB担当、ミッドマーケット担当、エンタープライズ担当といった明確なレイヤーが存在するかどうか。段階性がある場合、SDRから上位ポジションへと難易度を上げていく「階段型」のキャリアが成立する。
レイヤーが薄く少数精鋭でエンタープライズ案件を扱う企業では、早い段階から高難度案件に関与する可能性が高い。どちらが優れているという話ではない。設計思想が異なるということである。
第三の軸:SDRの位置づけ
SDRが将来のAE候補として育成前提で設計されているのか、それとも高度なインサイドセールス専門職として定義されているのか。この違いは若手のキャリアに直結する。
育成前提型では、SDRは営業組織の入口であり、次のレイヤーへ進むことが想定されている。専門深化型では、インサイドセールスを横方向に深化させる設計がなされる。
この三軸を重ね合わせることで、外資SaaS企業の営業構造は立体的に理解できる。
第3章|設計思想ごとの代表例
前章で整理した三つの軸に基づき、本章では設計思想ごとの代表例を提示する。ここで挙げる企業は構造理解のための代表例であり、網羅的な一覧ではない。より詳細な企業整理は会員専用エリアにて扱う。
1. 段階的育成型の代表例
Salesforce
構造の特徴
SMBからエンタープライズまで幅広い市場を持ち、営業レイヤーが明確に分かれている。
SDRの位置づけ
営業組織の入口であり、将来のAE候補という意味合いが強い。
組織規模の影響
日本法人のインサイドセールス組織は規模が大きく、競争は激しい。段階は存在するが、その中で抜ける難易度も高い大規模型である。
Zendesk
構造の特徴
SMBからエンタープライズまで展開可能な構造を持ち、日本法人でも営業レイヤーが明確。
SDRの位置づけ
営業組織の一部として育成前提で設計されている。
組織規模の影響
マネージャーの下に約10名規模のチーム体制で、成果が可視化されやすい。段階型が比較的機能しやすいモデルである。
現在の動き
直近ではBDRポジションを積極的に募集している。段階型の構造が機能している企業において、入り口の枠が動いているタイミングは多くない。構造理解とタイミングが重なる局面といえる。
詳細は以下の記事も参照してほしい。
ServiceNow
事業概要
構造の特徴
エンタープライズ比重が高いが、営業レイヤーは明確に設計されている。
SDRの位置づけ
内部育成の意志が明確に存在し、昇格ルートが機能している。
組織規模の影響
難易度は高いが、組織規模は比較的コンパクトで柔軟性がある。
2. 専門深化型という設計思想
専門深化型は、営業を縦方向に昇格させるよりも、特定領域における専門性を深める設計思想を持つモデルである。エンタープライズ向けソリューション色が強い企業に見られやすい。
代表例としては、SAP(およびその関連企業:Concur等)やBoxなどが挙げられる。いずれも企業の基幹業務や重要領域に関わるプロダクトを扱い、営業においても深い製品理解や業界知識が求められる。
このモデルでは、SDRからAEへ段階的に駆け上がるというよりも、特定領域における専門性を積み上げていくキャリアが想定される。
3. フェーズ依存型という存在
一方で、日本法人の組織規模や成長段階によって営業設計が変動しやすい企業群も存在する。
例えば、Snowflake、Zscaler、HubSpotなどは、SDRを設置しているものの、日本法人のフェーズやマネジメント方針によって営業レイヤーや昇格構造が変化する可能性がある。
グローバルでの設計思想と日本法人の実態が必ずしも一致しないケースもあり、一律に分類することは難しい。そのため、実際の組織構造や昇格実例を確認することが重要になる。
第4章|三つの成長曲線

- 段階型は、営業レイヤーを一段ずつ上がっていく構造である。責任範囲を段階的に拡張できる。
- 即戦力型は、初期から高難度の案件に関与する。立ち上がりは急であるが、負荷も高い。
- 専門深化型は、横方向に専門性を深める。特定領域における深い理解を武器にする。
営業という仕事は最終的に売上責任を担う。フォーキャストを持ち、クロージングを行い、組織の数字に責任を持つ。この経験をどのタイミングで積むかは市場価値に影響する。
第5章|若手が考えるべき視点
近年、インサイドセールス業務の一部はAIや自動化の影響を受けつつある。SDR専門職の求人が減少傾向にあるという声は、複数の外資特化エージェントとの対話でも共有されている。
断定はできないが、営業全体を理解し、クロージングまで担える人材のほうが環境変化に対する耐性は高い可能性がある。
ワイ個人の立場としては、SDRとして業界に入るならAEを目指すつもりで入ったほうが良いと考えている。最終的に専門深化型を選ぶとしても、一度は営業全体の責任構造を経験しておくことが、長期的な柔軟性につながる。
具体企業の整理について
ここまでで営業設計思想の骨格は整理できたはずだ。
では実際に、どの企業がどの傾向にあるのか。
チャレンジャーベースが日々の面談と企業との対話を通じて観測している具体的な企業分類一覧については、ログイン後の会員向けコンテンツで公開している。(以下の表のぼかし無しバージョンが置いてあるので、ぜひ無料登録してみてな) 
構造を理解した上で、次は具体企業の設計を確認してほしい。
主要企業の営業設計思想整理
ここでは、営業設計思想ごとに主要企業を整理した。
繰り返すが、この分類はチャレンジャーベースが日々の面談・企業との対話を通じて観測している傾向に基づくものであり、部門や時期によって例外は存在する。