【企業研究】Zscalerとは何者か ── 「セキュリティの会社」やと思って敬遠しとるなら、ちょっと待ってほしい
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学長トミオ
先に断っとく。2022年ごろから、Zscaler に入ったチャレンジャーが何人もおる。ワイが学長をやっとるこのAcademyの運営元、外資IT特化の人材エージェント・チャレンジャーベースがお手伝いした人らや。そやから、ワイにとって知らん会社やない。ちなみに読み方はゼットスケーラー。英語やとズィースケーラーやけど、日本ではこれで通っとる。
ただ、ワイにとっては、自分で売ったことのない領域ではある。エージェントの仕事柄、セキュリティの会社がどんな人を採って、どんな売り方をしとるかは追いかけとる。ワイ自身が10年ほど外資ITで営業をやっとった頃に売っとったのは BI とか CX とか、業務アプリケーション(会社の業務を回すためのソフト)が中心で、セキュリティの製品を自分で提案した経験はない。ゼロトラストの説明はできる。けど、それを売る側の手触りはわからん。
で、ずっと引っかかっとった。入った人らの経歴を見ると、業務アプリの営業出身が目立つ。Salesforce や SAP の出身者も、この会社でよう見かける。セキュリティの会社に入って、なんでやっていけるんやろ。
本人に聞けば答えは返ってくるけど、それは中の人の話や。外から構造として説明できるもんが欲しくて、黒田さんに頼んだ。「セキュリティの会社」の一言で片付けてええ会社なんか、公開資料と決算で確かめてほしい、と。黒田さん、お願いします。
\ この記事の検証担当 /
黒田 Challengers Academy 企業研究担当
外資ITの現場から経営の近くまでをひと通り経験し、いまは一歩引いて業界全体を見ています。会社を宣伝文句ではなく、構造で読み解くのが役回りです。本稿では、学長トミオの「セキュリティの会社という一言で片付けてよい会社なのか」という問いを、公開資料に照らして確かめます。
1. Zscaler は何を売っているのか ── 守るのではなく、つなぎ方を変える
学長トミオの問いに答える前に、まず同社が何を売っている会社なのかを、営業職の読者向けに整理しておきます。
Zscaler の商品を一言でいうと、「社員とアプリケーションを、社内ネットワークに載せずに直接つなぐ」仕組みです。同社はこれを Zero Trust Exchange と呼び、世界160以上の拠点に分散したクラウド上で運営しています。
学長トミオが「説明はできる」と言っていた「ゼロトラスト」という言葉も、営業職の読者向けにここで一度ほどいておきます。難しい概念ではありません。多くの企業はいまも、社内ネットワークという「城壁」を築き、社員が外から入るときは VPN で城門を通し、いったん中に入った人は信用して社内システムを使わせる、という設計です。ゼロトラストとは、この「中に入った人は信用する」をやめる考え方です。城壁の内か外かで判断せず、誰が・どの端末で・どのアプリを使おうとしているかを毎回確かめる。Zscaler の発想はその延長で、城壁そのものを前提にしない。社員が使うインターネットや SaaS への通信は Zscaler のクラウドが中継して検査し(ZIA)、社内システムへのアクセスは VPN ではなくアプリ単位で許可する(ZPA)。加えて、端末からアプリまでの通信のどこが遅いかを可視化する製品(ZDX)が、社員の利用体験を支える側で使われています。
ここで押さえておきたいのは、同社が箱(ハードウェア)を売っていないことです。売っているのは、クラウド上で検問所を運営するサービスと、それを前提にした「会社のつながり方の設計変更」です。顧客側から見ると、これはセキュリティ製品の買い替えというより、ネットワークの作り直しに近い。製品の性格から言えば、Zscaler の営業が顧客と話す内容は、脅威対策の機能そのものより、企業のインフラをどう組み直すかという設計の話に寄る、と筆者は読みます。学長トミオが「業務アプリ出身の人がなぜやっていけるのか」と引っかかっていた理由の核心は、おそらくこの一点にあります。
2. 数字で見る現在地 ── シートを売る会社から、契約構造を売る会社へ
同社の直近の決算(2026年7月期=FY26 の第4四半期、9月3日発表)を見ます。
- 売上高 8億9,820万ドル、前年同期比 +25%
- ARR(年間経常収益)37億7,100万ドル、前年比 +25%
- うち、2025年8月に買収した Red Canary の寄与分が1億4,100万ドル。これを除いても ARR は +20%
- Non-GAAP 営業利益率 24%(同社として過去最高)
筆者が注目したいのは、成長率そのものより、CFO が決算で挙げた成長要因の中身です。同社は、シート(ユーザー数)に紐づかないソリューションの寄与が大きくなっていること、Z-Flex という購買モデルの勢い、大型案件が過去最多水準であること、そして営業生産性の改善を挙げています。
Z-Flex とは、製品を個別に買うのではなく、クレジットのプールを契約し、必要に応じて Zscaler の各機能に振り分けられる契約形態です(契約期間は12〜60か月。正規リセラーの製品説明による)。顧客にとっては SKU の複雑さが減り、営業にとっては、一度契約した顧客の中で機能を広げていく「クロスセル」の前提が最初から契約に組み込まれることを意味します。

Red Canary の買収も、この文脈で読むと位置づけが見えます。Zscaler の強みは「侵害を防ぐ」側にあります。Red Canary は MDR(マネージド検知・対応)の会社で、侵害が起きた後の検知・調査・対応を担います。両者を合わせることで、同社は予防から SecOps(セキュリティ運用)までを一つの契約で提案できる会社に変わろうとしている。同社自身は自らを「ゼロトラストを基盤とした AI セキュリティプラットフォーム」と表現していますが、営業の視点で言い換えれば、売り物の単位が「製品」から「顧客のセキュリティ運用の全体」へ広がったということです。
3. 日本市場 ── パートナーが面を広げ、直販は階段で組む
日本法人はゼットスケーラー株式会社。東京・丸の内に本社を置き、2025年4月に大阪オフィスを開設しています。代表取締役の金田博之氏は2020年12月、日本・アジア事業全体の責任者として就任しました。
日本市場の規模感については、同社が2024年9月のメディア向け説明で、日経225企業の約6割が顧客であり、国内顧客数は600社以上と説明しています(同社発表による数字で、第三者の検証は入っていません)。さらに2026年6月のメディア取材では、金田氏が、日本は Zscaler にとって第3位の市場であり、四半期ごとにグローバルの伸び率を2桁上回っている、という趣旨を述べています。9月15日には年次イベント Zenith Live ’26 Tokyo を開催する予定で、昨年は約1,400名が来場しました。日本への投資が続いている会社だと見てよいでしょう。
日本での売り方を理解するうえで、筆者が参考になると考えるのは、同社が毎年発表しているパートナーアワードです。2025年度の受賞企業を見ると、パートナーオブザイヤーはソフトバンク(2年連続)、そのほか NTTドコモビジネス、KDDI、NEC、富士通、SB C&S、IIJグローバルソリューションズなどが部門賞を受けています。国内の通信キャリア3社がいずれも部門賞に名を連ねていることが、日本の Zscaler の構造をよく表しています。
キャリアやディストリビューターは、Zscaler の販売の「面」を広げる役割を担っています。ソフトバンクは中堅・中小企業向けに自社ブランドのプランを用意し、受賞時の発表では150社以上の顧客に運用支援を提供していると述べています。2025年9月にはネットワールドがディストリビューター契約を結び、販売網の裾野はさらに広がりました。金田氏自身も2026年6月の取材で、中小企業向けを重点事業の一つとして挙げています。
一方、Zscaler 本体の直販は、顧客の規模ごとにセグメントを分けた階段構造で組まれています(詳しくは次章)。パートナーが広げた面の上に、直販が規模別の担当を置く。日本の Zscaler を営業の視点で見るときは、この二層を頭に入れておくと組織の形が理解しやすくなります。
なお金田氏は同じ2026年6月の取材で、日本企業へのサイバー攻撃が相次いだことを受け、ゼロトラストへの取り組みが従来の CIO レベルから CEO などの経営層の方針として扱われ、事業継続計画(BCP)の一環として捉えられるようになってきた、という趣旨の発言をしています。提案の相手が経営層のさらに上へ上がっている、という状況認識として読めます。
4. 営業組織 ── 求人票と公開情報から見える形
営業組織の詳細は同社の公開情報に限りがあるため、求人票と公式ブログから読み取れる範囲で整理します。求人票は募集時点の希望条件であり、実際の組織や採用実態を保証するものではない点はお断りしておきます。
同社のジョブボード全体を見ると、営業セグメントは Strategic → Majors → Enterprise → Commercial → SMB の階段構造になっています。日本では、Strategic(最上位顧客)、Majors(製造業などセクター別)、Enterprise、Commercial(西日本担当・大阪拠点のリモート可の求人もあり)の各 AE 求人が過去1年で確認できました。なお同社の CEO は2026年9月の決算説明会で、ここ数四半期のあいだに営業組織を「案件起点の営業からアカウント起点の営業へ」転換してきたと説明しています。担当顧客を決めて深く入り込む形に寄せてきた、ということです。
筆者が注目したのは、Enterprise AE の求人票に書かれた必須要件です。求められているのは「IT ベンダーまたは IT ソリューションプロバイダーでの直販経験」であり、その領域として SaaS、クラウド、セキュリティ、ネットワーク、プラットフォームが並列で挙げられています。セキュリティ経験は必須要件ではなく、選択肢の一つとして位置づけられている。1つの求人票の記述に過ぎませんが、学長トミオの問いに対する一つの一次情報ではあります。
SDR(Sales Development Representative)も存在します。同社の公式ブログ(2025年4月公開)では、Commercial チーム(主に従業員750〜5,000名規模の企業を担当)に所属する SDR が紹介されており、電話・メール・LinkedIn・手紙によるアポイント獲得、AE との戦略立案、展示会やイベントでの登壇まで担当している様子が描かれています。この SDR は、小学校の教員から国内 SaaS 企業の AE・CSM を経て入社しており、インフラやセキュリティの経験はまったくない状態だったと自ら書いています。つまり「営業未経験」ではなく、業務アプリの営業からセキュリティの会社へ移った例です。SDR から AE への登用制度については、公開情報では確認できませんでした。
5. トミオの問いに答える ── 「セキュリティの会社」という一言で片付けてよいのか
ここまでの材料を整理します。結論から言えば、「セキュリティの会社」という一言では収まりません。ただし、その理由と限界を分けて示します。
一言で片付けられない理由
第一に、売り物の性質です。同社が売っているのは脅威対策の機能ではなく、企業のインフラの組み直しであり、Z-Flex や Red Canary 買収以降は「顧客のセキュリティ運用全体」へ広がっています。これは、業務アプリケーションの営業が経験してきた「業務の作り替えを提案する」仕事と、構造的に近い。加えて、同社の訴求は一貫して「これまで用途ごとに分かれていた製品を、一つのプラットフォームに置き換える」という形を取っています。バラバラのシステムを一つにまとめる提案は、業務アプリの営業が ERP や CRM で繰り返してきた型そのものです。
第二に、人の面です。日本法人代表の金田氏は SAP に新卒で入社して15年、その後ミスミ、ライブパーソンを経て Zscaler に着任した人物で、セキュリティ専業の出身ではありません。Enterprise AE の求人票はセキュリティ経験を必須にしておらず、公式ブログの SDR は国内 SaaS の営業からの入社です。代表・求人票・公式ブログの三つの公開情報が、同じ方向を示している(公式ブログは1名分である点は割り引く必要があります)。
留保すべき点
一方で、「セキュリティ未経験でも同じように売れる」と読むのは行き過ぎです。求人票が並列に挙げているのは、SaaS でもクラウドでもネットワークでもよいが、いずれにせよ IT ベンダーでの直販経験は前提だという意味です。Strategic や Majors の求人要件は本稿では確認していません。また、日本の営業組織全体のうち、セキュリティ以外の出身者がどの程度を占めるのかは公開されていません。
直販 AE が相手にするのは、顧客の経営層とネットワーク部門です。ゼロトラストの考え方や、顧客のネットワーク構成を読む基礎は、入社後に確実に身につける必要がある。業務アプリの営業が持ち込めるのは「大企業アカウントの運び方」「経営層との対話」「パートナーを巻き込む力」「一つの契約の中で提案を広げる技術」であり、持ち込める資産は多いが、足すべき知識もある、というのが筆者の整理です。
もう一つ、決算の明るい面だけを引くのは公正ではないので、同じ決算説明会で語られた留保も書いておきます。
同社は前四半期に営業リーダー2名(地域統括と業種統括)が退任したことを明らかにしています。今回の説明では、業種統括は社内昇格で埋め、地域統括も外部からの後任が入社を承諾済みとしたうえで、この体制移行は FY27 の上半期にかけて続き、業績見通しにも織り込んでいる、と述べています。また FY27 の売上成長率の見通しは16.6〜17.5%で、FY26 の25%からは減速します。
一方で、営業組織は増員の方向です。同じ説明会で CEO は、大企業の最上位層には手厚く担当がついている一方、そこから下の層は担当が手薄になっていると述べ、アカウント担当の増員を進めるとしています。新規顧客の開拓に専念する営業職を新設し、専門チームとパートナー担当も増やす方針です。同社は全世界で2万社を目標としており、現時点の顧客は約4,600社。営業生産性は Q4 に過去最高を記録したとも説明しています。
リーダーの入れ替わりと増員が同時に進んでいる会社だ、というのが正確な現在地です。営業職として入るなら、自分が入る予定のセグメントが増員の対象なのか、担当リーダーの交代がどこまで進んでいるのかは、面接の場で直接確かめる価値があります。

Zscaler が「セキュリティの会社」という一言では収まらないことは、事業構造と人の両面から言えます。ただしそれは「誰でも入れる」という意味ではなく、求められている営業の型が、セキュリティ専業というより、大企業向けのプラットフォーム営業に近い、と言い換えるのが正確でしょう。
学長トミオ
黒田さん、ありがとうございます。
「持ち込める資産は多いが、足すべき知識もある」。これがワイの疑問への、いちばん納得のいく答えやった。ワイの印象で言うと、この会社の売り方は「いままで色んな製品でつぎはぎしとったのを、これ一つでいけます」や。それ、業務アプリの営業がずっとやってきた話やろ。業務アプリしか売ったことないワイが、この会社を「セキュリティの会社」の枠でしか見られへんかった理由は、たぶん「売る側の手触りがない」やったんやと思う。でも知識は後から足せる。大企業を動かしてきた経験のほうが、あとから身につけるのは骨が折れるで。
黒田さんが最後に書いた留保も、ちゃんと読んでほしい。リーダーが入れ替わりながら増員しとる会社や。自分が入るとこは増員の対象なんか、上司になる人はもう決まっとるんか。こういうのは外から眺めても分からん。面接で自分で聞くことや。
セキュリティやから、と入口で扉を閉めとる人は、一回この記事を読み直してみてほしい。この会社が自分に合うんか、いまの経験がどこまで通用するんか、話してみたいなら、ワイに相談してくれ。うちの運営元のエージェント面談に繋ぐで。
学長トミオ
Happy Selling!
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